SSブログ
前の10件 | -

街…ヤツの姿を捜して歩いた…

「あのさ…」ノブが何か言いかける。
「早いほうがいいな…」最後まで聞かずに答えた。
「そうだよな…」
「明日やるか?」
リョウジが我慢しきれずに、一人でやる前に…
「あぁ、いいよ…リョウジはどうする?」
「できれば…黙ってたいけどな…」
「だよな…でも、無理だろ、そんなの…」
「かもなぁ…まぁ、ちょっと話してみるよ」
「うん…」

ノブと別れて家に向かった。
思いついて、目についた電話BOXに飛び込む。
リョウジの家にかけてみたが、一旦帰ってすぐに家を出たという。
アイツ…なんて気が短いんだ…慌てて、街に向かった。
ノブに電話…と思ったが時間が惜しかった。
小さな街だった。
アイツらを捜そうと思えば、何カ所か歩けば見つかる。
商店街を抜けて、小走りに駅へ向かった。まずは駅前だろう。

それからボウリング場、ゲームセンター、喫茶店何カ所か…
アイツらのいそうな場所は、そんなところだ。
リョウジもきっとそう考えているはずだ。

駅前のロータリーにアイツらがいた。
ヤツを入れて6人…無意識に人数を数えていた。
リョウジの姿を目だけで捜す。いた。
それほど多くない人影の中に、リョウジはいた。
まっすぐにアイツらを見ている。
動くなよ…遠巻きにリョウジに近づきながら思った。
今にも飛び出して行きそうだった。


きっと…空のせいなんだ…

病院を出ると…黙って顔を見合わせた。
固い表情のまま、並んで歩いた。
しばらく歩いてから…ノブは立ち止まった。
どんよりと曇った空を見上げながら…
「鬱陶しいなぁ~…」イラついた声を出す。
「あぁ…いろいろ鬱陶しいな…」リョウジが言う。
それっきり、黙って歩き続けた。

リョウジと別れて、ノブと二人きりになった。
「大丈夫かな?」ノブが呟いた。
「リョウジのことか?」俺が問い返す。
「あぁ、あいつ…気が短いからな…」
「だよな…あいつ…今、ヤバいんだろ?」
「謹慎1、停学1…今度は何かあったら…マジでヤバいよ」
「そうだな…今度はダメだろうな…」
二人とも、また、黙り込んだ。

リョウジのことだから、黙っているはずがない。
すぐにでも、あいつを殴りいくだろう。
退学になろうが、警察にひっぱられようが、関係ない。
そんなことを考えるようなヤツじゃないんだ。
いや、そもそもアイツが考えることなんてあるのか?

どうする?わかりきっていることを自分に聞いてみる。
もう、決めていた。いや、もう決まっていたんだ。
ヒデがやられたと聞いた時から…決まっていた。
空を見上げると重い雲が広がっていた。
気分が重いのは、きっと空のせいだろう。


声なき笑い…音のない拍手… [雨は心まで…]

すれ違うだけのはずだった…
ヒデが一歩踏み出さなかったら?そうなっていただろう。
だけど、ヒデは踏み出した…
学校の帰り…アイツが道の向こうから仲間と数人で歩いてきた。
アイツの顔を見た時、よけない…なぜかそう決めたと言った。

「なんだよぉ、テメェ」「どけよ…」「バカか…」「オイ…」
何を言われても、知らん顔で歩こうとしたらしい。
「テメェ!」「オラァ!」「ヤロウッ!」
たちまち囲まれて、身体を掴まれ、小突かれた。
一瞬無抵抗になすがままになりがら…次の瞬間…
アイツのニヤニヤ笑う顔を見つけて…ヒデは、掴みかかった。
「一発はあてた…」ヒデはそう言って笑った。
だが、その後は寄ってたかって、殴られ、蹴られ…
ボロボロにされていた。

地面に這いつくばってからも、蹴られ、踏まれ…
たまたま、人が通りかかった時は、肩の骨にヒビが入っていた。
病院に運ばれて、少し騒ぎになったが…
ヒデは、知らないヤツだったと言い張った。
俺たちにだけ、アイツを殴ったと誇らしげに言った。
俺たちは、ヒデの手を握って声を出さずに笑った。
音の出ない拍手が三つ…病室でヒラヒラと繰り返された。

 

 


きっと…誰かが走り出す… [雨は心まで…]

そうか…そうだったのか…
なんとなくすべてがわかったような気がした。
あの旗を大事に持っていたのも…
自分の力を知りながら、野球を続けていたのも…
結局は、美希につながっていたのか…

みんな俯いて歩いた。
変わってしまったもの…変わらなかったもの…
いろんなものを抱きしめて、傾きはじめた眩しい光を背中にして…
俺たちは、あてもなく…ただ、同じ方向に向かって歩いていた。

五月の風の中をただ歩いていた。

あの時、それ以上は何も言わなかったヒデは…
その後変わった様子も見せず、野球の練習を続けていた。
俺たち3人は、それ以後「美希」についても…
ヒデについても、あえて話したりはしなかった。
もし、一言でも口に出せば…
走りだしてしまうしかないことに、誰もが気づいていた。

何事もなかったように、何も気にしていないように…
相変わらず適当に、そして慎重に…あたりまえの日々を送った。
そんな日が長続きしないことは、わかっていた。
いつか、必ず3人のうちの誰かが、走り出してしまう。
そう思っていたし、どこかでそれを待っていた。
たぶんリョウジだ…俺はそう思っていた。

だが、最初に走り出したのは、意外にもヒデだった。


5月の光… [雨は心まで…]

昨日の続き…その⑤…になってしまった…

~~~~~~~~~~~~~~ 

駅員に飛びついたノブはもちろんだが…
警察官に飛びついてしまった俺は、かなり長い時間しぼられた。
脅されたり、優しく諭されたり…説教が長かったわりには…
学校にも、家にも連絡はされなかった。
狭い駅の事務室から、ようやく解放されて…
俺たちは線路沿いを黙って歩いた。

落ち込んでもいなかったし、後悔もしていなかった。
ただ、なんとも言えない中途半端な気持ちが…
4人の足どりを重くしていた。

5月…光があふれ、風が流れる道を…
やりきれない想いを胸の奥に抱え込んで、
爽やかとは無縁な顔をした高校生4人が歩いている。

「俺…好きだったんだ…」ヒデは、絞り出すように言った。
3人の目が、見てはいけないものを見るようにヒデに向けられる。
「なんか…悔しいよ…こんなの…」
「もう、言うな…わかってるから…」
黙って頷きながら、リョウジがヒデの肩を叩いた。
「試合に出たら…応援にきてくれるかも…って…
ただ、そう思って、頑張ってきたのに…こんなの…ねぇよな…」

俺たち3人は、ヒデの顔から目をそらした…
5月の光が、ヒデの頬を伝う何かに反射してキラリとゆれた。


俺たちの旗は… [雨は心まで…]

電車の窓に張りつくようにして、ヒデは走った。
動き出した電車の窓に、大きな白い布を掲げるように広げた。
少し汚れた白地に、大きくピンクのハートが描かれている。
下手くそな字で、俺たちの名前と学校名が書かれていた。
あれは、俺たちの旗だ…中学最後の大会の前に…
美希が作ってくれたハートの旗にみんなで名前を書いた。
「優勝したら、校旗のかわりにこれを揚げよう!」
美希が笑顔で言って、試合の時はベンチに張られた。
初戦で負けて…夢は叶わなかったけど…
あの旗には、いろんなものが込められていた。
忘れかけていたいろんな想いが甦って…みんな走り出していた。

 

 転びそうになりながら、ヒデは走っていた。
俺たちもヒデの後を追った。
窓から美希の笑顔が見えた。泣いていた。
涙でボロボロの笑顔だったけど、今までで一番の笑顔だった。
人は、こんなに辛くても笑えるんだ…
そんなどうでもいいことに、なぜか感心していた。

横から止めようとする駅員が出てくる。
ノブが飛びついて、引き留める。
リョウジがヒデの前に出て、二人で広げるように旗を持った。
また誰かが出てきた…駅員?いや制服が違う。警察か?
俺は迷わず飛びついた。誰にも邪魔させない。
あっという間に、押さえ込まれた。
冷たい床の感触を頬に感じながら見上げると…
二人はホームの端までたどり着いて、大きくバンザイをしている。
片手を後ろにねじ曲げられながら、俺も手を挙げた。
後ろからノブの「バンザァ~イ」が聞こえた。


駅に… [雨は心まで…]

その③

四月に美希は突然高校を辞めた。
理由は、はっきりわからない…
授業中に倒れたこと、妊娠していたこと、自分から辞めたこと。
確かなのはそれだけだった。あとは全てが噂だった。
だが、美希を知る同級生から聞いた話は…ある程度真実だろう。
「美希もバカなのよ…よりによって、あんな男とね」

要するに、アイツが遊んで捨てたんだ。
学校でも、家でも相手の男が誰かが問題になった。
美希は最後まで誰にも言わなかった。そういう女なんだ。
美希が苦しんでいるのに、アイツは知らん顔だった。
自分の名前が美希の口から決して出ないことも…
ヤツは、きっと計算済みだったんだろう、そういうヤツなんだ。

美希は、家にというかこの町に居づらくなって…
五月には、遠い親戚の家から別の高校に通うことになった。

町を出ていく日…
俺たちは、四人で駅に向かった。
気づかれないよう見送るつもりだった。
きっと、本人もそれを望んでいるだろうと思った。
美希が電車に乗り込むのを遠くから見送った。
ドアが閉まった瞬間…突然、ヒデは走り出していた。
「あっ!」「おいっ…」「よせっ!」三人が止める間もなかった。


俺たちのアイドルだった… [雨は心まで…]

昨日の続き…②

俺たちは同じ中学の野球部だった。
でも、高校に進んで野球を続けたのは、リョウジとヒデだけ。
だけどリョウジは、数ヶ月で先輩を殴って辞めた。
よく我慢したほうだとノブと二人で感心した。

結局、一番才能がないと自他ともに認めるヒデだけが野球を続けた。
2年になって、なんとかレギュラーになって…
初めての試合が近づいていたのに…
つまらない喧嘩で、ヒデは怪我をした。
いや、本人も俺たちもつまらないとは思わない。

誰にでも大事なものはある。
他人が理解出来ようと出来まいと…大事なものはある。
何かを捨てても、守らなければならないもの…
俺たちにとって、「美希」はそういう存在だった。

俺たちの中学の野球部のマネージャーだった。
俺たちの汗くさいだけの想い出の中で、唯一美しい部分。
中三の時は、ヒデを除く三人で告白の権利をかけて殴り合った。
勝ったリョウジがあっけなくフラれた時…
これからは、全員のアイドルってことにしようと誓った。

高校は女子校へ行ったけど、時々噂は聞こえてきた。
半年前に嫌な話を聞いて、みんな落ち込んだ。
よりによって、うちの高校のヤツと付き合ってる。
そいつは大嫌いな先輩「コウジ」だった。
学校でも、いつも仲間というか取り巻きとつるんで歩いている。
おとなしそうなヤツを見つけては、度を超えた悪さをしていた。
何より気に入らないのは、いつもしっかり計算していることだった。
学校や大人にばれないよう、強いヤツとはぶつからないよう…
いつもしっかりと計算している。そういうヤツだった。


雨が降る前に… [雨は心まで…]

えぇ~、ちょっと雰囲気を変えて…
まだ、熱かった頃の話なんぞ…してみますかぁ~。

今でこそ、しっかりオジさんしてますが?
それなりに熱い時期もあったわけですよ…自分にも。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

梅雨が近づいていた…
空は今日も曇っていて、モヤモヤした気持ちを余計に苛立たせる。
学校から出て、河原まで歩く途中でノブと一緒になる。
「降ってきそうだなぁ…」
「どうだっていいよ」
「そりゃ、そうだ」
後は二人とも黙って歩いた。

 

川を越える鉄橋の下に隠したバイクに乗った。
ノブが後ろに乗ってくる。
「とりあえず、一旦帰るのか?」
「リョウジのとこに寄ってかないと…」
「なんだぁ、結局あいつも来るの?」
「仕方ないだろ、ハジくわけにもいかねぇし…」
「まっ、そうだな…あいつもヒデとは長いから」
「じゃ、安全運転で…」
「あぁ、そうしてくれ。こっちはノーヘルだから」
聞き終わらないうちにバイクを出した。
ノブが甲高い叫びを上げたが、声だけは置き去りにした。

リョウジの部屋でしばらく話した。
コーラの缶を灰皿代わりに三人で煙草を吸った。
「ヒデは、ずっと補欠だったからな」リョウジが独り言のように言う。
「あいつはお人好しだから…」ノブが言った。
「それでも俺らみたいに、グレもせず野球を続けてた」俺。
「そう、だからレギュラーになった…」リョウジ。
「3年が二人しかいねぇからだろ?」ノブが言う。
「でも続けてなきゃ、なれなかった」リョウジが怒ったように言う。
「やっと試合に出られるようになったのに…」
俺の呟きに、三人とも黙り込む。
「あの野郎…」ノブの言葉はそこで止まった。
続きは、三人とも胸の中で自分にだけ言った。
「ぶん殴ってやる…」


お待たせしました…? [遠い憧れ]

もし待ってくれた方がいたなら…

すみません…仕事で留守にしてまして…

待たせたわりにたいしたことないけど(笑

続きです…

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「濡れちゃったね…大丈夫?」
泣き顔を隠すのも忘れて、思わず振り向いていました。
少しだけ見上げたさきに、やさしい顔がありました。
高校の制服を着て、青い傘をさしかけてきます。
知らない女性でした。
小学生にとっては、高校生、それも女子高生は不思議な存在。
大人ほど安心して子供でいられるわけでなく、中学生ほど近くもない。

「どうしたの?ケンカでもした?」
こちらの戸惑いを気にするでもなく、
いつのまにか傘をさしかけて、並んで歩いていました。

「雨、小降りになってきたね…」
答えを待つでもなく、やさしい声が語りかけてきます。
自分は、ただ黙っていました。なんと答えたらいいのか?
なんとなく小さく頷いたり?首をふったりしていました。
時々、せいいっぱい気づかれないようにして、
その人の顔を見あげていました。

ソバカスの目立つ顔、柔らかそうな耳たぶ…
長い髪には、雨の滴が少しだけついて、小さな球が光っている。
「学校は楽しい?」「勉強は何が好き?」
いろんなことを話しかけられて、なんとか…
「うん」「国語」…単語だけをやっと答えられるようになった。

「ほら?明るくなってきたよ、雲が流れてる」
傘を少しあげて、空を見上げた、その人から…
とてもいい香りがしました。
初めてドキドキしている自分に気づいて、さらに動揺する。
すごく悪いことをしているような気分になっていた。

見つめ続けた足下が止まった。目の前に分かれ道。
「こっちに帰るんだけど…傘持っていく」
「ううん、いい」
「大丈夫?雨、まだ少し降ってるけど…」
「大丈夫」心配されまいと、はじめて顔を真っ直ぐに見た。
「そう、じゃ、気をつけて行ってね」
「うん」背中を向けて歩き出そうとすると…
「あっ、待って…」膝を折って、顔をのぞき込んでくる。
白いハンカチを出して、少し乱暴に顔をふいてくれた。

「男の子が、泣いちゃダメ!わかった…」
「うん…」答えながら、また泣きそうになる。
「家に帰る前に、これで顔ふくのよ、わかった?」
「うん…」いつのまにか、白いハンカチを握らされていた。
「じゃ、頑張れぇ~」頭を小さくたたかれた。

「さよなら」小さく手をふって、背を向ける。
後姿を見送って、走り出した。もう、雨はほとんどやんでいた。
少しだけ走って、立ち止まって振り向いた。
遠くなる長い髪の後姿は、一度だけ振り返って手を振った。
それを確かめて、今度は本気で走りだした。

 

雨はあがって、雲の切れ間から傾いた薄日が射してくる。
「もう、泣かないよ…」胸の中では、はっきりと言えた。
息は苦しくなってきたけど、立ち止まったりはしない。
水たまりの水をはじきながら、走り続けた。
胸の中が、どうしようもなく熱かった。

青葉の5月…
雨上がりの道を走りながら、少し大人になった気がした。


前の10件 | -

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。